遺言書の効力その1 「遺留分」とは

以前、こういう相続登記の相談がありました。
旦那様が亡くなられて、奥様名義に相続をしてほしいという内容です。
被相続人(亡夫)との間には、お子様がおられませんでしたので
本来なら奥様と、旦那様の兄弟姉妹(親がご存命ならばその親)が相続人になります。
ちなみに、お子様がいらっしゃれば、みなさん御存じのとおり、奥様とお子様が相続人ですね。
今回の場合、旦那様は遺言書をお作りになっていました。
お子様がいない家庭ですと、遺言の効力は非常に強いのです!
なぜかと言うと・・・
・・・とその前に、
皆様「遺留分」って知ってます?
「遺留分」とは、平たく言うと、
遺言で、相続分のすべてをもらえなくなってしまうのはかわいそうなので、一定の財産はちゃんと相続人にあげるよ、と法律で決めてある割合のことです。
例えば、夫の遺言書に、「すべて愛人にあげる」と書いてあったら、妻や子供は、怒りますよね。
こういう時、妻や子供は、本来もらえるべき相続分の半分が保障されているのです
もちろん、この、遺留分減殺請求権というものは、行使しなくてもいいですし、一年間ほおっておくと時効で消えてしまいますが
実は、この遺留分という権利、被相続人の兄弟姉妹にはないのです。
要するに、相続人が妻と亡夫の兄弟姉妹の場合、
夫の遺言書に、「妻に全部あげる」と書いてあれば、その通りになるということなのです。
しかも、遺言書がある場合の相続登記は、ない場合と比べて、相続人の行う手間がかなり少なくなるのです
「妻に全部あげる」という遺言だと、遺言書と、旦那様と自分の戸籍、住民票、固定資産評価証明書だけで済み
司法書士等の専門家を除けば、奥様だけで登記ができてしまうのです。
遺言を書く、書かないは個人の自由ですが、
こういう遺言を残していた旦那様は

「奥様への愛情が深かったのかな」

と感じます

遺言書の効力 その2 書き方で・・・

遺言書の効力 その2 書き方で・・・
前回のお話の続きで
旦那様の優しさで作成していたであろう、この遺言書
ただ、ちょっとした落とし穴が
旦那様の遺言書の書き方は、以下のような感じ
私の所有する以下の土地、建物は、妻A子に相続させる。
土地 足立区千住四丁目 26番3
    宅地  200.00㎡

建物 足立区千住四丁目26番地3
    家屋番号 26番3
    居宅  平家建 100.00㎡
要するに、自宅の部分を妻に相続させようとお書きしていたんですね。
このような遺言書の書き方は、結構多いです。
こういう遺言書を見て、どう思います??
素直に、「ああ、自宅を妻にあげたかったんだな」
と思う方もいらっしゃると思います
しかし、司法書士の私としては、

「あれっ・・・自宅部分しか書いてない」

と思うのです。
故意にそういう遺言書を書いたかどうかは別として、
現金や、貯金や、他の不動産があったらそれはどうするんだろう?
と考えてしまうのです。
もちろん、前回書いたように、この遺言書のおかげで、自宅部分の奥様への名義変更は、スムーズにできます。

ただ・・・この旦那様は、

他の3㎡位の小さな私道部分もお持ちだったのです。(;°皿°)

私道部分は遺言書のどこにも書いてありません。
ということは、相続人の共有財産・・・
おそらく、旦那様は、その私道部分があることがわかっていれば、遺言書に書いていたはずです。
意図的に私道部分を抜かすとは考えられないので
結局、この私道部分(正確には、他の財産も)のために、旦那様の兄弟姉妹の方々(相続人全員)と、遺産分割協議を行わなければならないのです。
なんか、残念ですね
そういうことも含めると、この遺言書、旦那様の本当の意図とは違うような気がしませんか?
どういうことかと言うと・・・

遺言書の効力 その3 すべてを相続させたい。

さて、前回の続きで
遺言書が、もしかしたら旦那様の本当の意図とは違うものかもしれないというお話でした。
遺言書は、ちょっとした書き方に違いで、自分の意図するものと違うものができあがってしまう可能性があるのです
今回の場合も、もしかしたら、奥様にすべての遺産を相続させたかったのかもしれません
一般の方だと、
「俺のめぼしい財産って言ったらよ、頑張ってローン払って買った、この家と土地しかないっぺよ」(茨城訛り)
と考えられて、自宅の部分を書いておけばいいんだろ、と思う方もいらっしゃると思います。
これだと、先に書いたとおり、自宅部分だけが相続対象になってしまいます
全部あげたい場合はどうしたら良いか?
簡単です
「私の遺産は、すべて妻A子に相続させる」
と書けば済むのです。
先の例で言えば、自宅部分を書いた次に、
「その他一切の遺産は、妻A子に相続させる」
と書いてあれば、私道部分も晴れて一人で相続することができたんですね。
本当に簡単な話ですよね
専門家が入っていなかったのかな?
ちょっぴり残念
ただ、遺言を書くという行為自体は、素晴らしいですね
今回の場合でも、少なくとも、自宅部分の登記への労力は格段に減りましたし
ちなみに、一番簡単な遺言の例は、先ほどの、
「私の遺産は、すべて妻A子に相続させる」
という形。
ためしに、自筆で上記の通り書いて、今日の日付と名前を書いて、三文判でいいので、ハンコを押してみてください。
自筆証書遺言のできあがりです!
注)本当に効力が発生してしまう恐れがあるので、意図してない遺言の場合は破棄してくださいね
こんな簡単な遺言でも、妻にすべて相続させたいだけであれば、済んでしまうのです
まあ、自筆証書遺言はあまりお勧めはしないのですけど
やっぱり、公正証書遺言が確実なので
と書くと、やっぱりその辺も触れておかなければなりませんね

自筆証書遺言と公正証書遺言

さて、今回は、自筆と公正証書遺言のメリット、デメリットってことですね。
自筆証書遺言のメリットは、ここまで書いてきたとおり、
簡単に作成できるってことです。
なにしろ、今から書こうと思っても簡単な遺言であれば、10分くらいでできてしまいます。
また、書くだけなら、無料ですよね
紙代とインク代は別として・・・
デメリットは??
まずは保管です。
生前もそうですが、なかなか保管場所に苦労しますよね
いつもの場所だと、すぐに見つかってしまう可能性もあるし、
あまり難しいところだと、自分が死んだあとに見つけてもらえない可能性もあります
遺言がないものとして相続人全員で相続登記した後、
数年たって見つかったら、逆にもめる原因にもなりかねません。
次に、見つけてもらっても、ちゃんと正式に手続きを踏んでもらえるか、ということ
みなさん、自分の身内が亡くなった後、たまたま遺言書を見つけました
封がしてあったとして、中身を見たくありませんか???
もちろん、勝手に開たら5万円以下の過料に処されるのですが(民法1004条、1005条より)
ふつう、見たくなるのが人間の心理ですよね。
それで、期待していた遺産相続で、全部愛人にあげるって書いてあったらどうします???
捨てたくなるのが心理ですよね?
もちろん、民法891条1項5号に、
「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」は、相続権を失う旨の規定があります。
いや・・・捨てちゃだめですけど
相続権がなくなるので。
・・・が、ばれなきゃいいや、って思う人もいますよねえ
それに、昔のことは、もういいやってこともありますよね。
要するに、捨てられてしまう可能性もあるってことです
そして、最大のデメリットとしては、検認手続!
これは、結構めんどくさいです

自筆証書遺言の検認手続について。
この検認手続は、民法1004条に書いてありますが
なんのためにやるかというと、
相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するため
だそうです。
裁判所のサイトに載っているのですが。
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_06_17.html
簡単に言うと、
いきなり遺言書が出てきたって?
相続人みんながが知ってるわけじゃないし、納得しないでしょ?
じゃあみんな集まって確認しようぜ!
という手続きです。
この字、親父の字じゃないよ、とか、このときボケてて、あいつが勝手に書かせたんだ
っていう場合は、他の裁判で争ってくださいな
まあ、自筆証書遺言が見つかったら、家庭裁判所で検認してくれ、
って持っていって、
家庭裁判所から、「相続人みんな集まって」って呼ばれる訳ですよ
(実際には、全員行かなくても手続きは済むらしいけど)

めんどくさいですよね

その際、申立書や戸籍とかそろえておかなければならないし
公正証書遺言の場合は、公証人役場に行って、本人(被相続人)立会いの下、公証人や証人の前で作成しているので、検認手続はないのです
ここは、大きな差ですね
あとは、自筆証書だと、公正証書と比べて、もめる可能性が高いですね
証人がいないわけだし
逆に、公正証書だと、その証明力を上げる分、公証人への手数料はかかります
参考までに手数料
http://www.koshonin.gr.jp/hi.html#04

一億未満で43000円
高いかな?安いかな?
次回は結論かな?

結論として
自筆証書遺言は書く本人は楽だけど、自分が死んだあと相続人が大変
公正証書遺言は書く本人は大変だけど、自分が死んだあと相続人は楽
ということになるかと思います。
私が勝手に考えているだけですけど。
法律家は、もめるの嫌いだから?公正証書遺言をすすめるわけですね。
私も、基本は公正証書遺言を勧めると思います。
遺言を残すと言うことは、自分の遺志を残したいということはもちろんですが
相続人のために、もめないように書いてあげる
というのも、大きな理由の一つだと思います。
仲の良くない相続人同士が、自筆証書遺言の検認のために
家庭裁判所からの呼び出しで顔をあわせるなんて
内容によっては、感情的になって喧嘩になりかねません。
また、遺言を残す本人も、
公証人と証人の前で陳述する公正証書遺言の方が
安心し、気持ちもすっきりすることが多いでしょう。
もちろん、ケースバイケースですので、相談内容によって
どちらがいいかアドバイスしてあげたいですよね。
それがプロのお仕事なんじゃないかと思います。
これにて、自筆証書遺言と公正証書遺言のお話は、一応完結ということで
ただ、遺言のネタはいくらでもあるので、
そのうちまた触れることもあるでしょう
こうご期待(^∇^)